アスワン/アスワング【Aswang/Asuwang】
珍奇ノート:アスワング ― フィリピンに伝わる伝説の吸血鬼 ―

アスワン(アスワング)とは、フィリピンに出没するといわれる有名な怪物のこと。

吸血鬼や魔女といった伝説的な存在として伝えられる一方、UMAとして紹介されることもある。

いくつかの種類があり、退治する方法にも様々なものがある。


基本情報


概要


アスワン(アスワング)は フィリピンで民間伝承として伝えられている怪物で、伝説の吸血鬼として古くから恐れられており、現地では映画やドラマの題材になるほどポピュラーな存在として知られている。なお、Aswangという単語はサンスクリット語で悪魔を意味するasura(アスラ)に由来するらしい。

日本ではUMAの一種として紹介されることが多いが、現地ではアスワングは吸血鬼の総称とされており、細かく言えば いくつかの種類に分けられている。最も有名なアスワングはマナナンガルと呼ばれるものであり、これは主にビサヤ諸島に住んでおり、昼間は人間として過ごし、夜になると身体を上下に分離して、上半身に翼を生やして人を襲うといわれている。

マナナンガルの性格は日本のろくろ首や中国の飛頭蛮に似ているが、吸血鬼としての性格も併せ持っており、塩やニンニクが弱点で、下半身にこれを塗りつけられると合体できなくなり、上半身だけの時に日光を浴びると死んでしまうという。この他には鳥型や死体型のアスワングがいるとされ、一説にリーダーは黒い石を持っており、これを継承して超能力を受け継ぐとされている。

現代でも目撃例が多く、2005年に現地の漁師が襲われたという事件があり、2006年には地元のカメラマンによって上空を飛行するアスワングらしき未確認生物が撮影されている。この写真は研究者によって「コウモリの誤認」と結論付けられたが、翼の生えた人間の上半身のような姿であるため、これをアスワングとする意見も多いようだ。

データ


種 別 UMA、伝説の怪物
目撃地 フィリピン
年 代 中世には既に存在していた
体 長 不明
備 考 様々な種類がいるとされる

類似するUMA



アスワングの種類


マナナンガル(Manananggal)


珍奇ノート:アスワング ― フィリピンに伝わる伝説の吸血鬼 ―

マナナンガルは 主にビサヤ諸島の西部の州に住んでいるといわれる女性の姿をした吸血鬼であり、昼間は人間の姿をしているが、夜になると獲物を求めて人目につかない森林に移動し、そこで上半身と下半身に分かれ、上半身にコウモリのような翼を生やして獲物を襲いに行くとされる。

なお、Manananggal(マナナンガル)という名は、タガログ語で「取り去る」または「分離する」を意味する「tanggal」という単語に由来するらしい。

マナナンガルは 胎児が好物で妊婦の匂いを嗅ぎ分けることができ、夜中に妊婦のいる家の屋根に降り立ち、自在に伸びる鋭い舌を妊婦の子宮内に伸ばして胎児を吸い取ってしまうしまうとされる。

なお、塩やニンニクが弱点であり、それらをすり潰して灰と混ぜたものを下半身に塗りつけられると上半身と合体できなくなり、上半身のまま日光を浴びると死ぬといわれている。この他にもガチョウの尾も苦手なようだ。

ワクワク(Wak-wak)・ティクティック(Tik-tik)


珍奇ノート:アスワング ― フィリピンに伝わる伝説の吸血鬼 ―

ワクワクはフィリピンの土着伝承で鳥のような姿をした吸血鬼であると伝えられており、農村地帯に現れて夜中に人間を襲うといわれている。空を飛ぶが、マナナンガルのように体を分割することはなく、羽ばたく時に「ワクワク」と聞こえることから この名で呼ばれているらしい。

現地では この「ワク、ワク」という音が聞こえた時は獲物を探しているところであり、その音が うるさければ自分よりも遠くに居ることを意味するとされ、近くにいる時には小さな音を立てて獲物に遠くに居ると錯覚させ、ナイフのように切れる翼 と 長く鋭いかぎ爪 を使って獲物を襲い、その心臓を食べるといわれている。

ブサウ(Busaw)


ブサウは外見や行動は人間に似ているが死体であり、墓地に住みついて死体を盗むとされる。時には葬儀場から新鮮な死体を盗んだり、事故現場に現れて被害者の死体を盗むともいわれている。なお、ブサウは塩に弱いとされる。

エケク(Ekek)


エケクは鳥のような姿をしており、夜中になると人間の血肉を求めて獲物を探しに向かうとされる。空を飛ぶが、マナナンガルのように体を分割することはないが、クチバシがあるという点がワクワクと異なるとされる。

エケクは夜になると巨大な鳥やコウモリに化け、寝ている妊婦の子宮の中にとても長い舌を伸ばし、胎児を殺して その血液を吸うとされ、この間に「エック、エック、エック」という音が聞こえるという。なお、エケクが獲物の近くにいる時はわざと小さな音を立てて、獲物に遠くいると錯覚させるともいわれている。

目撃談


2004年の目撃例


2004年9月22日、フィリピン南部にて農家のアヒルが襲われることが多かったので、農家の息子2人が田んぼの横の作業小屋に泊まり込み、ライフルを持って犯人を待ち伏せていた。

その日の夜、奇妙な音が聞こえてきたので兄が小屋の外に飛び出すと、巨大なイヌがアヒルに襲いかかっていた。そのイヌをアスワングだと思った兄は、すかさずライフルで そのイヌを撃ったのだが仕留めることはできず逃走を許してしまった。また、弟も流れ弾を受けて病院に搬送されたという。

2005年の目撃例


2005年8月12日、フィリピン北部の田舎町に住む漁師の男が網を整備しようと浜辺で作業していると、遠くの空に大きな鳥のようなものが見えた。すると、それがだんだん近づいてきて、やがて奇妙な音も聞こえ始めた。

男は全身に悪寒が走り、それが近づくに連れて目が離せなくなり、やがてそれが頭上にやってくると男は意識を失ってしまった。その後、男は通行人によって病院に搬送されて一命を取り留めたが、医者によれば 大量の血液を抜かれていたという。

2006年の目撃例


珍奇ノート:アスワング ― フィリピンに伝わる伝説の吸血鬼 ―

2006年5月21日、フィリピンの地元カメラマンによって民家上空に現れたアスワングらしき未確認生物の写真が撮影された。写真に写った未確認生物は巨大な翼を持っているが上半身のみにも見える。そのため、マナナンガルという種類のアスワングではないかといわれているが、研究者はこれをコウモリの誤認と結論づけたという。

備考


怪談




某ネットラジオの怪談「アスワンにまつわる事件」



アスワンは人間の血肉を糧とするフィリピンの吸血鬼である。

ビサヤ諸島に住んでおり、主に西部のカピス州・アンティーケ州・イロイロ州に多い。その中でもイロイロ州にはディマラスというアスワンの一族が住んでおり、そのリーダーはインポと呼ばれている。インポは100~200年生きているといわれ、普段は屋敷の中に居て 部下に食事の世話などをさせている。

アスワンにはいくつかの種類があるが、その多くは昼間は人間と同じような姿で過ごしており、夜になると姿を意のままに変えることができるといわれている(中には魔術師が調合した油を身体に塗って姿を変える種族もいる)。

なお、現地には昼間にアスワンを見分ける方法が伝えられている。例えば、マナナンガルというアスワンを見分ける方法は あらかじめ聖水を持ち歩いておき、近くにマナナンガルがいると聖水が沸騰するので それで見分ける。また、別のアスワンを見分けるには、アスワンと思われる人間の瞳を覗き込み、そこに映った自分の姿が逆さまだとアスワンだとされる。

フィリピンではアスワンは広く知られた存在であり、実際にアスワン絡みの事件も起こっている。

フィリピンのある女教師が、同僚の女教師に「今度の休日に田舎で祭りがあるので遊びに来ないか」と誘われた。この女教師は同僚とは長い付き合いで とても仲が良かったので、快く誘いに乗り、同僚の田舎に着いてからも その家族から とても親切にもてなされた。

その日は長旅だったので同僚から先に休むよう促されたが、女教師には休日の間にやっておかなければならない仕事があったので、早めに処理しておこうと思い、夜中に部屋の中で作業に取り組んでいた。

すると、隣の部屋から同僚と家族の話し声が漏れてきた。なにげなく聞いていると、どうやら同僚の父が「明日、お前の友人に睡眠薬の入ったミルクを飲ませろ。もう一つはお前が飲め。お前の友人が眠ったら近所の者を集めて生贄にする」というような話をしている。また、近所の者は同僚の顔を知らないので、ネックレスとパジャマの色で見分けるとも言っていた。

この話を聞いてしまった女教師は驚いたが、冷静になって この企みから逃れる方法を考えた。そこにミルクを持った同僚がやってきて「よく眠れるように」とミルクを飲むよう促した。そこで、女教師は「あとで飲むから置いといて」と言って その場を回避し、同僚がパジャマに着替えている間にミルクをすり替えておいた。

女教師がすり替えたミルクを飲み干すと、あとから同僚が睡眠薬入りのミルクを飲んだ。2人で雑談しているうちに同僚が寝入ってしまったので、女教師は同僚からネックレスとパジャマを身に着けて、同僚には自分のものを着せて毛布を被せておいた。

その日の深夜、近所の者が部屋にやって来た。その者達は2人の姿を確認すると、同僚を鈍器のようなものでボコボコに殴り、やがて連れ去ってしまった。その後、女教師は祭りに人が集まっていくうちに同僚の家から抜け出し、隣町まで逃げて何とか難を逃れたという。

なお、この話は後に映画化されたようだ。



某ネットラジオの怪談「アスワンの黒い石」



アスワンのリーダーであるインポは超能力を持っており、イヌ・コウモリ・ブタなどに変身することができる。そして、夜になると様々なものに変身して獲物を襲いに行くのであるが、インポにこのような力がある理由は「体内に埋められた黒い石」のおかげであり、やがて肉体が衰えてくると、体内から黒い石を取り出して、それを後継者に渡して力を継承するのだという。

退役軍人Aの体験談によれば、マルコス政権の時代に政府軍だったAの部隊に「行方不明の軍人Bを捜索する」という任務が課せられた。この任務の条件はBの行方が分かれば生死は問わないというものであり、20名ほどの部隊を組んでミンダナオ島付近のカピスというジャングル地帯に派遣された。

このカピスという場所は、フィリピンの中で黒魔術師の住む場所として有名であったので嫌がる兵士も多かったが、任務ということで渋々向かうことになった。なお、任務のターゲットであるBはAの元上官であり、カピスでのゲリラ討伐の任務の最中に行方不明になっていたが、姿を消してから数年後に写真が撮られていたため、政府軍には生存が確認されていた。

このことにより、Bは軍を抜けて独自に現地を牛耳っているという疑いをかけられたため、今回の捜索任務が立てられたのだという。ということで、Aの部隊がBの行方を追ってジャングルの中を進んでいくと、最初の部落でBの部下が食料調達に現れることが分かった。また、たまに部落の若者を連れて行くという情報も得られた。

さらにジャングルを進み、次の部落で話を聞くと、その部落では男女の若者が連れ去られているという。なお、この部落にはBの部下を尾行した者がおり、その者の話によって大まかなアジトの位置を掴むことができた。Aの部隊は聞いた場所付近に向かい、そこでキャンプを張っていると武装集団に襲われ、Aをはじめ部隊の兵士はことごとく捕らえられてしまった。

部隊の兵士は武装集団のアジトで4,5人ずつ牢屋に入れられていたが、数えてみても当初の人数より少なかった。そこで周囲の様子をうかがってみると、奥の方から兵士の悲鳴が聞こえる。Aらは生命の危機を感じたが、持物は全て取り上げられており、牢屋を脱出する手段もなかった。

そんな絶望的な状況に悲観していると、やがて武装集団が牢屋の方に近づいてきた。この武装集団はボロボロだったが軍人のような格好をしており、Aのいる牢屋のカギを開けて中の人間を引きずり出した。Aは仲間とともに拷問部屋のような場所に連れて行かれたのだが、そこには無罪に殺された部隊の仲間が数人横たわっているという悲惨な光景が広がっていた。また、武装集団の中にその死体を食べている者もいたという。

そこにBが現れて集団を制止したので、AはすかさずBに このようなことをする理由を尋ねた。すると、Bは「君には理解できないだろうが、私はここに王国を築いたのだ。これからも この王国を拡大していくつもりだ」などと語ったが、そのときのBは血走った目に血で口を赤く染めているという異常な姿であり、Aが知っているBとは全く異なるものだった。

また、Bは「君は黒魔術に興味があるか?実は昔から君のことを弟のように思っていた。よかったらここに残らないか?」と問いかけてきたが、Aはそれを断った。すると、Bは後で気が変わるかもしれないということでAを牢屋に戻し、他の仲間を殺し続けた。

牢屋に戻ったAは、今の部隊の上官であるCに今後の作戦について相談したが、使えそうな道具もなく、脱出できるようなアイデアは出てこなかった。その時、部隊の中で最も小柄な男が自分なら牢屋を抜け出せそうだと言い出し、皆で周囲を気にしながら、その小柄な男が牢屋を抜け出すことに賭けていた。

小柄な男は必死で脱出を試みると、やがて牢屋を抜け出すことに成功したので、牢屋のカギを開け、外にあったナイフなどの武器を仲間に渡して部隊の態勢を整えた。そして、部隊長であるCの指揮の下、皆で敵のリーダーであるBを殺害する作戦を立て、Bのいる部屋に向かった。

部隊はターゲットをBのみに絞り、一斉に飛びかかってナイフで何度も刺したが一向に倒れる様子がない。また、Bを何度刺しても抵抗する力は衰えることがなかった。やがてCがBに馬乗りになると、CはBの胸にナイフを突き立て そのまま腹の方に向かってナイフを引き下ろした。そして腹の裂け目に手を突っ込んで内臓を弄り、その中から"何か"を取り出した。

すると、Bは息絶え、Cは懸命に"何か"に付着した血を拭っている。Aが その様子に注目していると、やがて"黒い石"であることが分かった。そのとき、Cは不意に その"黒い石"を飲み込み、武装集団と争っている仲間の方に向かっていった。そして、Cが争っている場に出ていくと、なぜか武装集団は攻撃の手を止めた。そこで、Cが「お前たちのリーダーは殺した。この集団も解散することにする。それでいいな」と問うと、武装集団は素直に言うことを聞き、持っていた武器もその場に捨ててしまったという。

その時のAは、なぜこのようなことが起きたのか理解できなかったが、後に"黒い石"がアスワングのリーダーが代々継承するといわれる石であることが分かり、Bに問いかけられたことの意味 と 石の飲み込んだCの行動 がなんとなく分かったそうだ。